塗装の施工範囲と仕上がりや価格の関係

ギターの塗装修理をご相談頂くときに、高い頻度でご説明させて頂くことになる「施工範囲」と「仕上がりの良し悪しや価格」について書かせて頂きます。


例えば、米粒くらいの小さなキズを直したいとします。


米粒くらいのキズなら、コインからCDくらいの範囲で塗装し直せば、作業が少なくなり価格が抑えられ、仕上がりも綺麗にできるだろう…、というイメージを持たれてご相談を頂くお客様が多いです。しかし、作業をさせて頂く立場からの考えはかなり違います。


この認識を合わせておくことが重要で、できること/できないことをご理解頂くことが、仕上がりの納得感につながりますので、長文になりますがお付き合いください。

▼マスキングをするデメリット

施工範囲を小さくするためには、周囲をマスキングして作業をすることになりますが、マスキングには大きく2つのデメリットがあります。

ひとつ目のデメリットは、再塗装をする部分とマスキングをした部分に、塗装の厚さの違いが生じて段差や線が残ってしまうことです。この段差を消すためには、塗装表面を削ったり磨いたりする作業が必要になるので、段差を消すことや艶などの質感を整えようとするほど、徐々に施工範囲は広がっていきます。

ふたつ目のデメリットは、特にラッカーで塗装されている古いギターの場合に、マスキングテープの糊成分が塗装を溶かしてしまい、テープを剥がした時に痕が残る恐れがあることです。粘着力や刺激の弱いテープもありますが、それを使用しても問題がなくなることはありません。

▼色や質感を合わせることはできない

新品同士の同じ色のギターを比べても、1本1本に色の個体差があります。加えて、日焼けや退色といった後天的な変化が加わることで、バリエーションは無限になります。

塗装の色は、赤・青・黄・白・黒の塗料を混ぜて作りますが、1滴足すか引くかというレベルのさじ加減になります。しかも、塗装前の容器に入っている液体と、ギターにスプレーして乾燥した後の色は、全く違って見えることも多くあります。つまり、目の前にギターがあっても、それと同じ色を作ることは不可能です。

狭い施工範囲を修理すると、周囲と色や質感を一致させることが難しいので、斑点やしみのように痕が残る仕上がりになってしまいます。

▼使用する塗料がナチュラルの場合

ナチュラル(無色)は、文字通り無色の塗料であるため、キズを覆い隠す能力がありません。

もっと厳密にいうと、塗装が厚くなるほど光の透過率が下がるため、透明度が下がって色が暗くなります。キズが深い部分は色が暗くなるということです。

キズを目立たなくするためには、元よりも濃い色に全体を着色する必要があります。アコースティックギターの場合、ローズウッドなど色の濃い木材であれば補修痕は目立ちにくいですが、スプルースやメイプルなどの明るい色の木材では誤魔化しが効きません。

ここまでの説明でご理解頂けたと思いますが、話をまとめさせて頂きます。

■施工範囲が狭い補修(いわゆるタッチアップ)は、作業が大変な割に満足のいく仕上がりはなりにくく、結果として割高になる。

■施工範囲が広いほど、作業がシンプルになるため費用が抑えられ、均一な仕上がりにできる。

自動車のドアに小さなキズを付けてしまった場合に、キズの周りだけをタッチアップするよりも、ドア一枚を塗り直した方が痕を残さず仕上げられるのと同じです。ドアに残った小さな斑点は視線を集めてしまいますが、広い面積同士のわずかな色差であれば気が付きにくいものです。

ギターにおいてもそれは同じで、当ホームページのプライスリストの塗装関連の項目に記載している「全体」とは、ギターのボディとネックの全体を塗装する場合を差しており、いわゆる全塗装のことです。

「部分」とは、ボディの正面・側面・背面、ネックの裏などのように、大別できる範囲を塗装する場合を差しています。

各部分のより狭い範囲のタッチアップは基本的に承っておりません。もちろんご依頼頂く内容はケース・バイ・ケースですから、症状に合わせて柔軟に対応させて頂きます。

ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

よろしくお願い致します。

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