Martinのスクエアロッドとアジャスタブルロッドの違い
今回は、Martinのギター選びにおいてご質問頂くことが多い、スクエアロッドとアジャスタブルロッドの特徴について解説します。
はじめに、Martinギターに採用されてきたネックの芯材(補強材)の変遷に軽く触れておきます。
1833~1910年代は、ガットギターの時代です。ネックの木材には長らくシダーが使用されていましたが、1910年代にマホガニーに変更されます。まだ補強材は入っていませんでした。
1920~1930年代にかけては、大音量を求めてスチール弦が普及します。ネックの強度確保が必要になり、内部にエボニーの角材(Ebony Rod)が埋め込まれます。
1930~1960年代にかけては、多くのモデルが14フレットジョイント化するとともに、OMやDといったロングスケールの大型ボディが定番化していきます。増大したスチール弦の張力に耐えるため、芯材がT字断面の鉄棒(T-Bar Rod)に変更されます。
1967年からは、より軽量で高剛性な角パイプ状(Square Rod)の芯材に変更されます。
1985年からは、トラスロッド(Adjustable Rod)が採用され、順反りの矯正が可能になります。
2007年からは、ダブルアクション・トラスロッド(2-way Adjustable Rod)が採用され、順反りと逆反りの両方の矯正が可能になります。
現代は調整機能を持つものが主流ですが、ヴィンテージの再現を目指すモデルには、当時の仕様に準じて調整機能を持たない仕様で生産されることがあります。
さて、ここからが本題です。
現代ではアジャスタブルロッドが主流と書きましたが、70~80年代に製造されたスクエアロッドのモデルも充分に現役で使える個体があるので、ご購入の選択肢に入ってくると思います。以下に、両者の特徴やメリット/デメリットを解説していきます。
▼古きを温ねて新しきを知るのが[スクエアロッド]
スクエアロッドのネックは、高い剛性を持つ金属の芯に支えられ、気温や湿度の影響を受けにくく、安定した状態が長く保たれます。反らないことを前提とした考え方です。
シンプルな構造ゆえの軽量性や堅牢さから、弦振動の伝達効率が高いと言われています。ヴィンテージギターにも通じるような“竿鳴り”の感覚を得やすいです。特にローコードを鳴らしたときの、ビンビンと左手に伝わるダイレクト感は、スクエアロッドを選ぶ最大の理由になると思います。
ライトゲージを使用し、レギュラーチューニングでプレイされることを想定しています。また、絶対に反らない訳ではありませんので、反った場合にはネックアイロンによる調整が必要です。セッティングの自由度や気軽さの点では、アジャスタブルロッドに分があります。
▼柔よく剛を制し、弱よく強を制すのが[アジャスタブルロッド]
アジャスタブルロッドのネックは、気温や湿度の影響を受けて反るものと考え、ある程度のしなやかさや粘りを持たせて調整することを前提としています。
季節の変化や弦のゲージの変更、プレイするチューニングの変更に合わせて、常に最適なネックの状態に調整可能なので、セッティングの自由度の高さと調整作業の容易さが最大のメリットです。
言い換えれば、ネックの剛性はスクエアロッドよりも低いため、こまめな調整が必要かもしれません。他にデメリットはありませんが、強いて挙げれば、スクエアロッドに感じられる音色的な魅力は希薄なようです。
アジャスタブルロッドも万能ではなく、調整できる範囲には限度がありますので、それを超えたネックの反りにはネックアイロンを併用した調整が必要になります。さらにマイナーなケースですが、ネック内部に可動部品があるため、適切に調整されていない場合にビビリ音の原因になる可能性があります。この辺りは知識として持っておくだけで、過度に心配なさる必要はありません。
正しく理解して取り扱えば、どちらも充分に実用性があります。
あとは、古いものへのリスペクトやロマンを取るか、新しいものの利便性を優先するか、ご自身の趣向でお選び頂くことになりますので、この記事がお役に立てば幸いです。